自己資本比率とは?計算式や目安と危険水域、ROEとの関係についてわかりやすく解説
この記事では、上記のような疑問や悩みを解決します。
自己資本比率とは、 総資本(投下資本)に対する自己資本の割合 です。
たとえば、資金調達を行って200万円保有している企業が、100万円を銀行から借入れ、100万円を株式を発行することで資金を調達している場合、200万円(投下資本)に占める自己資本(100万円)は100/200=1/2となります。
つまり、投下している資本の半分を自己資本で調達しているということです。
この記事では、そんな 自己資本比率が企業経営においてなぜ重要な指標であるのかを解説します 。
この記事を読むことで、 自分で自資本比率が計算できるようになるとともに、自己資本比率を上手く活用して企業経営を進められる ようになります。
- 自己資本比率とは総資本に対する自己資本の割合のこと
- 自己資本比率が低い企業は安全性が低い
- 自己資本比率と自己資本利益率はトレードオフの関係
目次
自己資本比率とは?返済不要の資本が全体の何%を占めるかを示す数値のこと
自己資本比率とは、 返済不要な資本(自己資本)が、投下資本全体の何%を占めるかを示す数値(指標)のこと を言います。
自己資本比率から、その会社の安全性を判断することが可能です。
会社が借入を行った場合、この資金は返済しなければならないので、人の資金という意味で他人資本と呼ばれます。
一方で、会社が株式を発行して資金を調達した場合、この資金は返済する必要がない、会社の資金という意味で、自己資本と呼ばれます。
自己資本比率とは、 投下資本に対する自己資本の割合を意味している ので、投下資本のうち、何割を自己資本が占めているかを表しますから、 投資資本が返済の必要のない資金でどの程度賄われているのかを理解 できます。
自己資本比率の計算方法
自己資本比率の最も一般的な計算式は以下のとおりです。
自己資本比率 = 自己資本/総資本×100
この計算式では、総資本という用語を用いていますが、総資本とは会社が保有する総資産と同じ意味なので、総資本=総資産と言うこともできます。
一方、総資産とは、会社が将来の収益を得るために投資した額を意味しているので、総資産とは投下資本と言い換えることも可能です。
総資産=総資本=投下資本なので、分子は様々な用語で示されることがありますが、意味は同じです。
一方、分母である自己資本という用語は、従来、他人資本に対する自己資本、つまり、自分が自由に使えない資金(他人資本)に対する自分が自由に使える資金(自己資本)という意味を持っていました。
しかし、会計基準が変わったことによって、従来、資本と呼ばれていた自己資本は、純資産とも呼ばれるようになりました。
つまり、自己資本=資本=純資産というわけです。
このように、自己資本比率の計算式の要素は様々な用語で呼ばれることになりますが、どのように計算するにしても、基本的な意味は変わりません。
その意味とは、 返済不要な資本(自己資本)が、投下資本全体の何%を占めるか ということです。
自己資本比率の目安を業種別で比較
自己資本比率を経営に活用するためには、 同じ業界に属する同業他社の自己資本比率と自社の自己資本比率を比較することが重要 です。
以下の表は、経済産業省が実施している「2021年企業活動基本調査確報-2020年度実績-」を用いて、自己資本比率の目安を業種別に示します。
産業分類名称 | 2019年度の自己資本比率(%) | 2020年度の自己資本比率(%) | 前年度との差 |
---|---|---|---|
合計(全体平均) | 41.9 | 41.6 | -0.3 |
鉱業、採石業、砂利採取業 | 59.2 | 55.8 | -3.4 |
製造業 | 50.9 | 50.6 | -0.3 |
化学工業 | 57.8 | 58.1 | 0.3 |
鉄鋼業 | 39.6 | 40 | 0.4 |
電気・ガス業 | 27.1 | 25.1 | -2 |
情報通信業 | 50.1 | 50.5 | 0.4 |
新聞業 | 54.2 | 54.6 | 0.4 |
出版業 | 77.2 | 76.8 | -0.4 |
卸売業 | 39.3 | 40.3 | 1 |
小売業 | 43.5 | 43 | -0.5 |
クレジットカード業、割賦金融業 | 11.6 | 12.2 | 0.6 |
物品賃貸業 | 12.7 | 14.7 | 2 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 41.2 | 40.3 | -0.9 |
飲食サービス業 | 42.3 | 36.4 | -5.9 |
生活関連サービス業 | 41 | 36.5 | -4.5 |
サービス業(その他のサービス業を除く) | 48.4 | 26 | -22.4 |
出典: 経済産業省(2021)「2021年企業活動基本調査確報-2020年度実績-」より一部抜粋
自己資本比率は高すぎても低すぎても良くない
自己資本比率を経営に役立てるためには、同じ業界に属する同業他社と比べて、高いか低いかを比べることが重要 です。
同じようなビジネスモデルで経営が行われているにも関わらず、大きく自己資本比率が異なるということは、経営者の経営手腕に優劣があるということを意味しています。
ここでは、自己資本比率が低いケースと高いケースをどのように読み解けば良いか解説していきます。
- 自己資本比率が10%以下は危険水域
- 自己資本比率が高すぎるのも問題
自己資本比率が10%以下は危険水域
自己資本比率が10%以下であることは会社の安全性に問題がある可能性が高い です。
自己資本比率とは、総資本に対する自己資本の割合ですから、自己資本比率が10%以下となっているということは、総資本に対する他人資本の割合が90%以上になっていることを意味します。
他人資本とは、会社が自由に利用できない資金で、銀行などから借り入れている資金を意味します。
そのため、他人資本への依存度が高ければ高いほど、取引先へ買掛金の支払いができなくなったときに、会社運営ができなくなるという意味で、会社の安全性は損なわれるので注意してください。
自己資本比率が高すぎるのも問題
自己資本比率が高いことが意味するのは、経営者の消極的な投資姿勢です。
会社を運営するうえで最も重要なサイクルは、調達した資金を活用して、会社の経済活動を行い、会社の経営活動を通じて利益を獲得することです。
獲得した利益は、株主への配当に活用することもできますが、利益剰余金として会社に蓄えることもできます。
要するに、 自己資本が増えれば増えるほど、自己資本比率は高まっていく ことになります。
もし、会社を大きく成長させたり、売上規模を拡大したいのであれば、会社が獲得した利益は会社に蓄えるのではなく(自己資本を増やすのではなく)、再投資をすることが重要です。
したがって、自己資本比率が高すぎるということは、会社が獲得した利益を蓄えすぎていることを意味していますから、会社の成長や売上規模の拡大には寄与していません。
自己資本比率が高い・低いメリットとデメリット
自己資本比率は、高すぎるのも問題ですし低すぎるのも問題です。
以下では、それぞれのケースに応じたメリット・デメリットについて解説します。
- 自己資本比率が高いメリット・デメリット
- 自己資本比率が低いメリット・デメリット
自己資本比率が高いメリット・デメリット
自己資本比率が高いことのメリットは以下のとおりです。
- 経営的な安定性
- 融資を受けやすい
自己資本比率が高いほど、支払利息などをはじめとする金利の支払いに追われずに済むようになります。
さらに、 金融機関からの融資を受けやすくなる のもメリットの一つです。
自己資本比率が高いということは、総資本に対する負債の割合が低いことを意味するため、 借入を行える余力がある ことになります。
一方で、自己資本比率が高いことのデメリットは次のようになります。
- 経営者の消極的な投資姿勢
- 株主からの圧力の増加
自己資本比率が高いということは、 自己資本の内訳項目の一つで、過去の利益の蓄積である利益剰余金がある ということです。
利益剰余金は、配当の原資となるものなので、経営者が会社が稼いだ利益を配当にも再投資にも回していないことになります。
したがって、自己資本比率が高いということは、経営者の消極的な投資姿勢と捉えられかねません。
さらに、自己資本比率が高い要因の一つに、自己資本の内訳項目の一つである資本金が大きい可能性があります。
資本金が大きいということは、それだけ多くの株主がいるということです。
上場企業ほど資本金の額は大きくなりますが、それだけ株主も多くなるので、株主総会における株主の発言力が高まります。
株主から経営者の解任要求などが提示される可能性もあることから、経営が不安定になる可能性があります。
自己資本比率が低いメリット・デメリット
自己資本比率が低いことのメリットは以下のとおりです。
- 株主の発言力が弱い
- 経営者の任期が長くなる
先の例と対照的に、自己資本比率が低い要因の一つに、自己資本の内訳項目の一つである資本金が少ない可能性があります。
資本金が小さいということは、それだけ株主の数が少ないということです。
結果として、株主総会における株主の発言力が弱まります。
株主総会で株主から解任請求が出される可能性が低くなるなど、経営者が退任に追いやられる可能性が低くなるので、 経営者は長期間にわたって経営に携わることができます。
一方で、自己資本比率が低いことのデメリットは次のようになります。
- 会社の安定性が低い
- 機動的な資金調達ができない
自己資本比率が低いことは、会社の財政状態が負債に多く依存していることを意味します。
負債が多いと支払うべき金利が多くなることから、会社が資金繰りに窮する可能性があります。
その結果、会社が安定しない可能性があるので注意が必要です。
これに加えて、総資本に対する負債の比率が高くなるので、それ以上借入が難しい状態となる可能性があります。
負債の割合が大きくなるほど、それ以上金融機関から借入できない可能性が高まるので、必要なときに資金を調達できなくなります。
自己資本比率と「ROE(Return on Equity:自己資本利益率)」の関係
自己資本比率は、
総資本に対する自己資本の割合
を意味します。
計算式にすれば、自己資本/総資本で計算できます。
一方、自己資本利益率(ROE: Return on Equity)とは、 です。
当期純利益/自己資本で計算できます。
自己資本比率は分子に自己資本があり自己資本利益率(ROE)は分母に自己資本があります。
分子が大きくなればその数値は高くなりますが、分母が大きくなれば、その数値は低くなります。
つまり、自己資本が分子にある自己資本比率と自己資本が分母にある自己資本利益率は、逆数(トレードオフ)の関係になっているのです。
計算式上は、自己資本を高めれば高めるほど、自己資本比率は高くなる一方で、自己資本利益率は低くなります。
自己資本比率を高くする方法は2つ
自己資本比率を高くするには2つの方法があります。
基本的な考え方は、 分子を大きくするか(自己資本を増加させるか)、分母を小さくする(総資本を減らす)ということ です。
以下では、具体的な自己資本比率を高くする方法について解説していきます。
- 自己資本を増加させる
- 借入金の返済や棚卸資産の見直し、固定資産などを処分する
自己資本を増加させる
自己資本を増加させることで、自己資本比率は高くなります。
自己資本比率は、 総資本に対する自己資本の比率 ですから、自己資本/総資本で計算されます。
そのため、分母が一定の場合、分子である自己資本を高くしていくことで自己資本比率を高くすることが可能です。
自己資本とは、貸借対照表に表示されている言葉で言えば、資本金・資本剰余金・利益剰余金の総和です。
資本金を増加させるためには、新株を発行すれば良いことになります。
また、自己株式を取得して高値で売却すれば、資本剰余金を増加させることが可能です。
さらに、利益剰余金を増加させるためには、会社の利益を増やし、配当せず会社内に利益を留保すればよいのです。
借入金の返済や棚卸資産の見直し、固定資産などを処分する
借入金の返済や棚卸資産の見直し、固定資産などを処分する ことも自己資本比率を高めることに繋がります。
分子(自己資本)を一定と考えた場合、分母(総資本)を減らすことで相対的に自己資本比率を高められるのです。
借入金の返済を行なうと、総資本に対する負債(借入金)の割合が減少するため、相対的に純資産(自己資本)の割合が高くなります。
また、棚卸資産を減少させることで(不良在庫を無くすことで)、分母である総資本が減るので、自己資本比率を高めることが可能です。
同じように、固定資産を減少させることで(遊休資産を売却することで)、分母である総資本が減るため、自己資本比率を高められます。
まとめ
自己資本比率は、会社の投資をあらわす総資本をどの程度自己資本で賄っているかをあらわす指標です。
自己資本比率の優劣は、同じ業界に属する同業他社との比較によって判断します。
自分の会社の自己資本比率だけを気にしていてもあまり意味がないので注意してください。
自己資本比率をやみくもに高めても、経営者の投資姿勢に疑問が投げかけられる可能性があります。
自己資本比率という指標の持つ意味をしっかり理解して、その良し悪しを判断することが大切 です。
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