手形貸付とは?廃止される?メリット・デメリットと証書貸付との違い、仕訳や返済方法、1年超設定について
この記事では、上記のような疑問や悩みを解決します。
資金調達の一つの方法として 手形貸付 があります。
手形貸付は 支払手形を自ら発行して資金の提供を受ける方法 です。
手形を発行することで資金の提供を受けられるため、その際に 審査が行われることもなく、迅速に資金を調達できるといったメリットがあります 。
しかし、手形貸付は、他の資金調達方法と比べてどのようなメリット・デメリットがあるのか、あまり理解されていません。
また、手形貸付を含め、手形を利用した取引については、経済産業省が止めることを呼びかけているため、今後、あまり利用されなくなる可能性が高くなっています。
この記事では、 手形貸付についてわかりやすく解説していきます
この記事を読むことで、他の資金調達方法と比較して 手形貸付にどのようなメリット・デメリットがあるのかを理解できるようになります 。
- 手形貸付を利用すれば迅速な資金調達が可能
- 手形貸付は中短期間の資金調達に向いている
- 手形貸付は他の資金調達方法と比べて金利や手数料が安い
- 手形貸付は長期間・多額の資金調達には向いていない
目次
手形貸付とは?約束手形でお金を借りる方法のこと
手形貸付とは、
一定期日に資金を支払うことを約束した証券(約束手形)を、資金を支払う側が発行して資金を受け取る側に渡し、資金の受け取り側が資金の提供を受ける取引のこと
を言います。
資金を支払う側が約束手形(支払手形)を資金を受け取る側に渡すことで、 資金を支払う側は期日まで資金の支払いを猶予することが可能 です。
一方、
資金を受け取る側も、約束手形を期日よりも前に銀行に持ち込んで期日よりも前に入金を受けたりできる
ようになります。
つまり、手形融資を実行して資金を提供する側にとっては資金決済の柔軟性が高まります。
手形貸付では、 融資を受ける側が、約束手形(支払手形)を発行して資金の提供を受ける一方で、融資を行う側は約束手形(受取手形)を受け取って資金を提供します 。
手形貸付の借入期間と返済方法
資金を提供する側からみれば、手形貸付は期日まで資金を貸し付けるという行為に他なりません。
手形貸付を行う場合の貸付期間は一般に100日程度であり、 手形に記載された期日までに、指定の銀行口座(当座預金)に貸し付けた資金が返済されます 。
手形貸付を行った場合の手形の決済時期は100日程度となりますが、 取引銀行に手形(受取手形)を持ち込むことで、期日よりも前のタイミングで一定の手数料を支払ったうえで、資金が入金されます 。
逆に言えば、 手形借入を行う場合の借入期間は100日程度であり、手形に記載された期日までに、借入れた資金を返済しなければなりません 。
期日までに支払手形の決済を行わない場合、借入金を期日までに返済しないことと同じとなるので、著しく信用が低下することになります。
手形貸付のメリット
手形貸付を利用して資金を借り入れる場合(手形借入を行う場合)、
手形を担保に資金を借り入れるので、銀行のプロパー融資と比べて審査にも通りやすく、金利(手数料)も低くなる
のが一般的です。
手形貸付(手形借入)には以下のようなメリットがあります。
- 手形が担保なので審査が速い
- 資金繰り改善に便利(金利が低い・負債が増えない・繰り返し借入可)
- 印紙税が借用書より安い
メリット① 手形が担保なので審査が速い
手形貸付で資金を借り入れる場合、 手形を担保に設定したうえで資金の借入れを行うので、他の融資方法と比べて審査に手間がかかりません 。
銀行から融資を受ける場合、金銭消費賃借契約を銀行と結ぶ必要があり、この契約には銀行側による審査が必要です。
当然、審査には時間がかかります。
手形貸付では、 金銭消費賃借契約を結ぶ書類(借用証書)に代えて、手形を担保として相手に渡すことで資金の提供を受けます 。
したがって、 そもそも審査を受ける必要がありません 。
審査なしで資金の提供を受けられる分、 迅速に資金が入金されるというメリットがあります 。
メリット② 資金繰り改善に便利(金利が低い・負債が増えない・繰り返し借入可)
手形貸付は 資金繰りの改善にも有効 です。
手形貸付を利用して資金を借り入れる場合、自分自身で手形(支払手形)を発行して資金の提供を受けます。
手形を発行するだけで資金の調達が可能です。
ただし、発行できる手形の金額は、取引銀行との契約によって予め決まっているので注意してください。
定められた上限額までは手形を繰り返し発行でき、 銀行からのプロパー融資などとは異なる融資枠で資金の提供を受けられます 。
そのため、すでに多額の資金を銀行から借入れている場合でも、手形貸付を利用して資金の提供を受けられます( 借入金のような負債を増やさずに資金の提供を受けられます )。
加えて、手形を発行して資金の提供を受けたとしても、 金利が発生するわけではありませんので、金利が発生する融資よりも有利な条件で資金調達が可能です 。
メリット③ 印紙税が借用書より安い
約束手形は、印紙税額一覧表の第3号文書に該当するので、 手形金額に応じて印紙税が課税されます 。
銀行から融資を受ける場合にも、消費賃借に関する契約書(借用証書)を結ぶ必要がありますが、同じように契約書に記載される金額に応じて収入印紙の添付が必要です。
一例として、消費賃借に関する契約書に記載される金額が、500万円を超え1千万円以下の場合には、10,000円の収入印紙の添付が必要となります。
しかし、手形貸付を利用して資金の提供を受ける側が発行する手形に記載される金額が500万円を超え1千万円以下の場合には、2,000円の収入印紙の添付で済みます。
金額が大きくなればなるほど、手形貸付の方が印紙税額は安くなります 。
手形貸付における印紙税額は次のとおりです。
記載された契約金額 | 税額 |
---|---|
10万円未満のもの | 非課税 |
10万円以上100万円以下のもの | 200円 |
100万円を超え200万円以下のもの | 400円 |
200万円を超え300万円以下のもの | 600円 |
300万円を超え500万円以下のもの | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 2,000円 |
1,000万円を超え2,000万円以下のもの | 4,000円 |
2,000万円を超え3,000万円以下のもの | 6,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下のもの | 10,000円 |
なお、5,000万円を超える場合の印紙税は国税庁のページを確認してください。
手形貸付のデメリット
手形貸付には、以下のようなデメリットもあるので注意してください。
- 信用度の低い企業は審査通過が難しい
- 長期的な融資に向いていない
- 額面以上の融資は不可!
- 返済できないとリスケ扱い・2回の不渡りで取引停止
ここでは、それぞれのデメリットについて詳しく解説します。
デメリット① 信用度の低い企業は審査通過が難しい
手形貸付を利用するためには、そもそも手形を発行しなければなりません 。
しかし、信用度の低い企業は、そもそも銀行との間で手形を発行できる契約を結ぶことができません。
手形を発行できるようにするためには、 銀行からの審査を受け、その審査に通過している必要があります 。
したがって、信用度の低い企業については審査に通過できず、そもそも手形を発行できない可能性があります。
デメリット② 長期的な融資に向いていない
手形貸付は長期的な融資には向いていません 。
発行する手形には支払期日を明記しなければなりませんが、支払期日は一般に100日程度とされています。
つまり、 手形発行から100日程度経過した時点で、資金を返済しなければなりません 。
そのため、長期的に資金を借入れたい会社には向いていません。
あくまでも手形貸付は、当面の資金繰り改善のために利用するのが一般的です。
デメリット③ 額面以上の融資は不可!
手形貸付では 手形に記載された額面以上の資金の提供を受けることはできません 。
発行する手形に記載された金額の資金の提供を受けることになりますので、その後、それを変更することはできないので注意してください。
デメリット④ 返済できないとリスケ扱い・2回の不渡りで取引停止
手形貸付は、 手形に記載された期日に支払いが行われます 。
具体的には、期日に取引銀行の銀行口座から手形に記載された金額分だけ支払いが行われます。
ここで、銀行口座に残高が足りない場合、手形が不渡りとなるので注意してください。
これは、借入れした資金を期日までに支払えなかったことと同じことを意味します。
期日を超えて再度引き落としが行われますが、それでも支払いがされなかった場合、その銀行口座が凍結となり、銀行取引ができなくなります 。
資金の提供先や取引銀行との取引ができなくなり、信用情報にも傷がついて他銀行からも資金が調達できなくなるので、事業を継続できなくなり、事実上の倒産に陥ります。
経済産業省は約束手形は2026年までに廃止する方針を発表した
約束手形は、企業間の取引の決済に現在も利用されています。
しかし、 約束手形は、2026年を目処として利用を止めるよう、産業界や金融界に経済産業省が働きかけています 。
今後、 約束手形を用いた企業間取引は行われなくなる可能性が高い です。
経済産業省が取りまとめた報告書によれば、手形貸付のような約束手形を用いた取引には、次のような3つの問題点があると指摘されています。
- 支払いサイトが長い
- 手数料の負担
- 紙を取り扱う事務負担・リスク負担
1について、他の決済手段と比べて、約束手形は支払サイト(支払期日までの期間)が長いことが問題視されています。
現金(振込)による支払いが平均すると約50日で行われているのに対して、約束手形は約100日と、約2倍の長さとなっていることが指摘されています。
支払いサイトが長いと、資金の入金までに時間がかかるので、受取側の資金繰りが圧迫される可能性があるので注意が必要です。
また、2について、約束手形の支払いサイトが約100日あるということは、その間は支払いが猶予されていることと同じです。
したがって、 本来、支払猶予されている手形の振り出し側が金利分の手数料を支払うべき です。
しかし、実際には、手数料の負担は手形を受け取る側が負担しています。
たとえば、受け取り側が期日よりも前に受取手形を銀行に持ち込めば資金を受け取ることができますが、その手数料は受け取り側が負担しなければなりません。
さらに、3について、紙の手形は管理が煩雑です。
現金(紙幣)と同じように手形を管理しなければなりませんから、金庫を用意したり、盗難対策をしたりとコストを負担しなければなりません 。
こうした理由から、手形に変わって別の決済手段を用いることが推奨されています。
手形貸付と証書貸付の違い
手形貸付(約束手形貸付)と証書貸付(融資証書)は、どちらも企業や個人に対する融資の形態ですが、それぞれ異なる特徴を持っています。
- 手形貸付は約束手形を発行し、証書貸付は融資証書を作成する
- 手形貸付は短期間の資金調達に利用されることが多く、証書貸付は中長期の資金調達に利用されることが多い
手形貸付は、 企業や個人が資金を借りる際に、約束手形という金銭を支払う約束を書面にした証券を発行する形で行われます 。
約束手形は、事前に銀行との契約で発行できる上限が決まっています。
この約束手形は、一定の期間後に特定の金額を支払うことを約束する書面であり、貸し手側はこの手形を担保にして資金を貸し付けます。
手形貸付は、短期間の資金調達に利用されることが多いです。
一方、証書貸付は、企業や個人が銀行から資金を借りる際に、融資証書という契約書を作成し、その書面に基づいて資金が貸し付けられます。
融資証書は、借り手と貸し手が金額や利息、返済期間などの条件を明確に記載した契約書であり、銀行はこの契約に基づいて資金を貸し付けます。
証書貸付は、 中長期の資金調達に利用されることが多い です。
主として証書貸付は、金銭消費賃借契約書という借用証書を銀行と取り交わすものですから、企業や個人事業主が行えるものではありません。
証書貸付のメリット・デメリット
証書貸付とは、
金銭消費賃借契約を相手と結んで資金の提供を受ける取引のこと
を言います。
銀行からのプロパー融資、日本政策金融公庫による融資など、一般的な融資はこの証書貸付の形態で行われています。
以下では、証書貸付のメリットとデメリットについてそれぞれ解説していきます。
証書貸付のメリット
証書貸付は、 長期間・高額の貸付を受ける場合に利用される融資形態 です。
したがって、手形貸付と比べて、まとまった資金を借りることができ、長期間にわたってその資金を利用できます。
事業資金・運転資金など、様々な資金使途で利用できる というメリットがあります。
証書貸付のデメリット
証書貸付は、 資金の提供を受けるまでに審査があり、入金までに時間がかかります 。
貸し手側からすれば、証書貸付の場合、長期間にわたって、多額の資金を提供することになるので、慎重に借り手側の信用度を評価しなければなりません。
したがって、手形貸付よりも入金までに時間がかかります。
これに加えて、 証書貸付を利用した場合、金利の支払いが必要 です。
借入額も大きく、借入期間も長期間にわたるため、金利の支払いが負担となります。
証書貸付で利用する金銭消費賃借契約書には借入額が記載されますが、借入額に応じて印紙税の支払いが必要です。
手形貸付と比較すると、証書貸付の方が印紙税が高いので、同じ金額を借り入れる場合でも注意してください。
手形貸付と証書貸付は使い分けがおすすめ!
手形貸付と証書貸付は、
それぞれメリット・デメリットがあるので、使い分けて利用することが大切
です。
手形貸付と証書貸付を使い分けるポイントは以下のとおりです。
- 融資期間: 短中期は手形貸付、長期は証書貸付
- 資金使途: 運転資金・資金繰りの改善は手形貸付、設備資金・長期運転資金・事業資金は証書貸付
- 入金スピード: 短期での入金が必要であれば手形貸付、余裕があれば証書貸付
手形貸付に関するよくある質問
手形貸付に関しては、よく以下のような質問が寄せられます。
- Q: 手形貸付の仕訳方法が知りたい
- Q: 手形貸付を1年超の期間に設定することはできますか?
- Q: 手形貸付は個人事業主でも利用できますか
ここでは、一つ一つの質問に回答していきます。
Q:手形貸付の仕訳方法が知りたい
手形貸付を行った場合、手形貸付金という勘定科目を使って仕訳を行います。
手形貸付では、銀行宛の支払手形を資金を借りる側が資金を貸す側に対して振り出します 。
したがって、次のように仕訳を行います。
(借)現金 ✕✕✕ (貸)手形借入金 ✕✕✕
たとえば、20,000円を手形借入で借り入れる場合、まず銀行宛の支払手形を借り手側が振り出して、貸し手側に渡します。
その時点で次のような仕訳を行います。
(借)現金 20,000 (貸)手形借入金 20,000
先ほどとは逆に、手形を使って資金を貸し付けた場合は、現金貸付と同様に、手形貸付も資金を貸し付ける行為ですから、以下のように仕訳します。
(借)手形貸付金 ✕✕✕ (貸)現金 ✕✕✕
たとえば、20,000円を手形で貸し付けた場合、(受取)手形を受け取ることになりますから次のように仕訳をします。
(借)手形貸付金 20,000 (貸)現金 20,000
Q:手形貸付を1年超の期間に設定することはできますか?
手形貸付を利用する場合、1年以上の支払いサイトを設定することは一般的ではありません 。
手形貸付の支払いサイトは、平均すると約100日であると言われています。
約束手形をはじめとする支払条件の改善 に向けた検討会 報告書
Q:手形貸付は個人事業主でも利用できますか
個人事業主でも手形貸付を利用することはできますがあまり一般的ではありません 。
個人事業主が手形貸付を利用する場合、銀行による審査があります。
銀行によるプロパー融資と同様に、手形貸付の審査も非常に厳しいものです。
したがって、個人事業主が手形貸付を利用することは可能ですが、実務上、ほとんど利用されていません。
手形貸付のまとめ
手形貸付は短期間での迅速な資金調達に向いています
。
事前に銀行による厳しい審査があるものの、 審査を通過して手形が発行できるようにしておけば、手形を担保にして比較的容易に資金を調達することが可能 です。
しかし、手形貸付は長期間・多額の資金調達には向いていない点に注意が必要です。
信用度の低い企業は、そもそも手形を発行できないので、手形貸付を利用することができません。
手形貸付によって提供を受けた資金はおよそ100日程度で返済しなければならず、1年を超えることは基本的にできないので注意してください。
昨日は0人が事業資金の調達に成功しました。
今日は0人が事業資金の調達に成功しました。
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