「ローカルフード事業」22道府県で始動 地域の課題解決で持続可能なビジネスモデル構築
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【この記事の要約】
☑ 農林水産省が「ローカルフードプロジェクト」に着手
☑ 地域の事業者が連携して、持続可能なビジネスモデルを創出する
☑ 経済的利益だけでなく、所得向上や耕作放棄地の解消など社会的課題の解決も目指す
地域の企業をはじめ、農業・商業の関係団体などが連携して、持続可能なビジネスモデルを創出するプロジェクトが本年度から始まっています。
「ローカルフードプロジェクト」と銘打たれており、英語の頭文字を取ってLFPと呼ばれています。
農水省は、地域の事業者が連携し、地場産物を活用した持続可能なビジネスを生み出す「地域食農連携プロジェクト」(LFP)について、初年度の2021年度は22道府県が取り組むと発表した。既に18府県では、JAや食品業者などが参画して、農産加工品作りといった新事業の立ち上げに着手。地域の事業者の所得向上をはじめ、耕作放棄地の増加や担い手不足といった課題の解決にもつなげることを目指す。
LFPでは、都道府県を実施主体に、農業、食品製造、小売り、観光などの事業者が連携。
農産物を使った新商品作りやサービスの開発を目指します。
旗振り役の農林水産省は、試作品の製造や専門家の派遣などに必要な経費を助成しています。
初年度となる2021年度は、22道府県が取り組む予定。
すでに18府県では事業に着手しています。
農水省は、ゆくゆくは全ての都道府県がLFPに取り組むことを目指しています。
社会的課題の解決と経済的利益の両立
LFPには二つの特徴があります。
特徴1. 社会的課題の解決と経済的利益の両立
一つは「社会的課題の解決と経済的利益の両立」。
単なる地域活性化にとどまらず、地域の農林水産業や商工業が抱える課題を解決することで、持続可能な事業に発展させることを目指しています。
行政などの支援で新たな加工品を開発する事業は、これまでも日本各地で数え切れないほど多く行われてきました。
これらの事業の多くは、地域の賑わいづくりや特産品のPRといった点を重視。
「経済的利益」に重きを置く傾向があり、「社会的課題の解決」に目を向けているものばかりではありませんでした。
新たな商品を開発して、地域の活性化につながったケースはもちろんあります。
しかし多くは、一過性の話題で終わったり、フェードアウトしたりしているのが現状。
地域の課題が解決されないまま賑わいを作ろうとして、結局途中で息切れを起こしてしまう、というパターンが繰り返されてきました。
LFPでは、事業を行うことで、地域の事業者の所得向上をはじめ、耕作放棄地の解消、農業の担い手の育成につなげることを目指します。
また、食品ロスの解消、子育て女性の支援など、SDGs(持続可能な開発目標)と親和性の高い課題解決も多く掲げられています。
特徴2. 地域の食と農の事業者が参画するプラットフォームの形成
もう一つの特徴は、「地域の食と農の事業者が参画するプラットフォームの形成」です。
さまざまな事業者がこのプラットフォームに加わることで、持続可能なビジネスを共同で作り出すことを目指します。
参加事業者として、都道府県、農林漁業者のほか、食品加工業者、外食・中食業者、観光事業者、金融機関、食育・栄養関係団体、地方大学などの研究機関-などを想定。
LFPの立ち上げに際し、プラットフォームに参画する事業者を公募している県もあります。
農水省は、LFPの関連予算として2021年度は2億2200万円を計上。
これまで都道府県主催の研修会などに専門家の派遣などを行ってきました。
年度後半には、ビジネス化に向けたハンズオン支援、クラウドファンディングを活用したテストマーケティングの導入支援などを行っていきます。
地域性豊かな各地の取り組み
主な取り組みの概要は以下の通りです。
都道府県 | 取り組み概要 | 目指す課題解決 |
秋田県 | タマネギやマダイなどを原料とした加工品の開発と販路開拓 | 農林水産物の加工を県内で行うことで、地域経済の好循環を図る |
埼玉県 | ショウガをなどを用いた発酵炭酸飲料の開発。百貨店、小売店が協力した販売促進 | 耕作放棄地、農業の担い手不足の解消、未活用の農産物の好循環を図る |
長野県 | エノキタケのメンチカツなどを開発し、学校給食などに提供 | 健康増進、食糧問題と味の追究の両立 |
新潟県 | 地域独自の乳酸菌発酵酒粕を使ったアイスクリームの開発 | 県民の健康増進、食品ロスの解消、酒どころの発酵技術の活用 |
富山県 | 魚津市産のモモやリンゴを活用した幼児食、ご褒美スイーツの開発 | 子育て支援 |
京都府 | 京都の料亭などによる新たな家庭向け商品の開発、販売。輸出を見据えた冷凍技術の確立 | 外食需要、観光需要に過度に依存しないビジネスモデルの構築 |
奈良県 | 柿ワインの開発 | 耕作放棄地の解消、地域経済の活性化 |
岡山県 | 「岡山甘栗」の生産者と菓子業者が連携したプレミアム商品の開発 | 中山間地域の新たな収入源確保、雇用の確保 |
香川県 | うどん用県産小麦「さぬきの夢」と希少糖を使用した和洋菓子の開発 | 県産麦の付加価値拡大、持続可能なフードビジネスの創出 |
宮崎県 | 健康意識の高い消費者をターゲットに、県中西部の綾町の有機野菜を使った加工食品を開発 | 市場ニーズの変化に対する対応力の向上 |
山岳県・長野のキノコ、酒どころ・新潟の酒粕アイスクリーム、「鐘が鳴るなり法隆寺」でおなじみ奈良のカキなど、地域色豊かな取り組みが目立ちます。
研究機関など、地域の強みや財産を生かした都道府県もあります。
観光地を擁する京都府は、外食需要、観光需要に過度に依存しないビジネスモデルの構築が目標。新型コロナウイルス禍による消費行動の変化に対応しようという意識がうかがえます。
商品の冷凍技術の確立では、京都市内に多く立地する大学、企業の協力を仰ぐ計画で、京都ならではの強みを生かした内容です。
岡山県の「岡山甘栗」は、県森林研究所が開発した新品種のクリ。従来品種に比べ、実の皮離れがよい、甘みが強い、管理に手が掛からず、害虫のクリタマバチに強いなどの特徴があります。
岡山県は「岡山甘栗栽培マニュアル」を作成するなど普及を推進。商品開発により、過疎化が深刻な県北部の農家を潤したい考えです。
香川県は、高松市の菓子工房が生産者や加工業者と連携し、どら焼きやクッキーを開発。県産小麦「さぬきの夢」は、輸入小麦と比べ香りが豊かなのが特徴で、うどんに加工すると断然風味が上がります。
希少糖とは、キシリトールなど自然界にごくわずかにしか存在しない糖類で、血糖値の抑制などに効果があると言われています。
香川大学が研究をリードしていて、同大には国際希少糖学会が置かれています。
アメリカの「ローカルフード運動」
今回の取り組みに似た運動として、アメリカでは1990年代から「ローカルフード運動」が展開されてきました。
アメリカ版「地産地消」と呼ばれるもので、有機・無農薬農業、飲食店による地元の農産物やクラフトビールなどの使用、農産物直売所による地域での消費-などが推奨されました。
背景にあったのは、経済のグローバル化です。
大量生産、大量消費により、環境破壊や貧富の差の拡大が進み、小規模農家は市場から排除されつつありました。
これらの課題に対する対抗手段として取られたのがローカルフード運動でした。
翻って、現在の日本では、コロナ禍も相まって、特に地方の中小企業は厳しい局面に立たされています。
今回の「ローカルフードプロジェクト」がどこまで地域の課題解決につながるかは未知数ですが、事業者が生き残るためのヒントを与えてくれるかもしれません。
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