40年以上確定申告の「違法状態」放置?!~改めて「経営セーフティ共済」とは
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【この記事の要約】
☑ 連鎖倒産を防ぐための「経営セーフティ共済」で問題発生?
☑ 中小企業のリスクマネジメントと節税のための「経営セーフティ共済」
☑ 改めて、そのメリットとデメリットは?
中小企業の連鎖倒産を防ぐための「経営セーフティ共済」で「違法状態」が放置されていたとして、大きく報じられています。
確定申告をめぐり、個人事業主の所得税優遇で添付が必要な明細書の書式を国税庁が作成せず、40年以上、書類に不備がある申告者に優遇を受けさせていた可能性があることが分かった。
引用:2021年11月7日|産経新聞
この問題を確認すると共に、中小企業の連鎖倒産を防ぐための制度である「経営セーフティ共済」について、ここでもう一度確認しておきましょう。
連鎖倒産の危機に備えるセーフティネット
取引先が突然倒産し、中小企業が経営難に陥り、連鎖倒産に追い込まれることを防ぐための制度として、独立行政法人中小企業基盤整備機構が中小企業倒産防止共済法に基づいて提供しているのが「経営セーフティ共済」(中小企業倒産防止共済制度)で昭和53(1978)年4月にスタートしました。
高度経済成長が終わりを告げた昭和40年代後半、景気後退に伴って倒産する企業が増加する中、突然の取引先企業の倒産で被害を受けることが多い中小企業の相互救済のための仕組みとして作られました。
対象となるのは大企業ではなく、1年以上継続して業務を行なっている会社、個人事業主、組合などで、業種ごとに資本金(出資額)、従業員数により加入制限があります。
「経営セーフティ共済」の加入制限
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する従業員数 |
---|---|---|
製造業その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
建設業 | ||
運輸業 | ||
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | |
小売業 | 50人以下 | |
ゴム製品製造業 | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業 | 300人以下 | |
情報処理サービス業 | ||
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
令和3年3月末現在、約54万の事業者が加入しており、貸付け実績は、累計で約27万件、総額約1兆9,000億円となっています。
具体的には、取引先の法的整理、取引停止処分、でんさいネットの取引停止処分、私的整理、災害による不渡りやでんさいの支払不能、特定非常災害による支払不能の場合に共済金の借入れが受けられます。
いわゆる「夜逃げ」の場合は不可能です。
「経営セーフティ共済」制度における「倒産」の定義
種類 | 定義 | 倒産日 |
---|---|---|
法的整理 | 破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始、特別清算開始の申立てがされること。 | 申立てがされた日 |
取引停止処分 | 手形交換所に参加する金融機関によって取引停止処分を受けること。 | 取引停止処分の日 |
でんさいネットの取引停止処分 | でんさいネット(株式会社全銀電子債権ネットワーク)に参加する金融機関によって取引停止処分を受けること。 | 取引停止処分の日 |
私的整理 | 債務整理の委託を受けた弁護士または認定司法書士によって、共済契約者に対し支払いを停止する旨の通知がされること。 | 通知がされた日 |
災害による不渡り | 甚大な災害の発生によって、手形や小切手等が「災害による不渡り」となること。 | 当該手形等の手形交換日または呈示日 |
災害によるでんさいの支払不能 | 甚大な災害の発生によって、でんさいが「災害による支払不能」となること。 | でんさいの支払期日 |
特定非常災害による支払不能 | 特定非常災害(政府が「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」に基づき指定する大規模な災害)により代表者が死亡等した場合に、弁護士等によって、共済契約者に対し支払いを停止する旨の通知がされること。 | 通知がされた日 |
金融業者、不動産業者、一般消費者を取引先にする事業者は加入を断られることがあります。
融資対象となる債権は、売掛金と前渡金で、貸付金や不動産賃貸料などは対象になっていません。
その他、継続的な取引状況を把握することが困難である場合や、すでに貸付を受けている共済金などの支払いが滞っている場合、所得税や法人税を滞納している場合も、加入できないことがあります。
契約者に相続、会社の合併、分割、事業の全部の譲渡などがあった場合、包括承継人や譲受人が加入資格を満たしていれば、共済契約者の地位を承継することができます。
ただし返済義務があった場合には、それも引き継ぐことになります。
経営セーフティ共済のメリット
①無担保、無保証人で、掛金の10倍まで借入れ可能です。
貸付金の上限は「回収困難となった売掛金債権等の額」か「納付された掛金総額の10倍(最高8,000万円)」の、いずれか少ない方のです。
②取引先が倒産し、売掛金などの回収が困難になった場合には、取引が確認でき次第、借り入れることができます。
倒産日から6か月を経過した場合には、借入できなくなるので注意が必要です。
③掛金は月額5,000円~20万円までで自由に設定でき、増額や減額もできます。
掛金は総額が800万円になるまで積み立てることが可能です。確定申告の際には、法人の場合には掛金を損金として、個人事業主の場合には必要経費として計上できます。
④取引先が倒産していなくても、臨時に事業資金を必要とする場合に、解約手当金の95%を上限として借入れができます。
借入額は30万円以上(5万円単位)で使途は事業資金(運転・設備)に限られます。返済期間は1年です。利率は変動します。利息は借入れの際に一括で前払いとなります。
⑤資金が必要になった場合、解約も可能です。
何が問題だったのか?
この制度を使っている個人事業主が所得税の優遇を受ける場合、確定申告の際に掛け金の明細書を添付するように、租税特別措置法に明記されています。
ところが、会計検査院が平成30(2018)年に、この「経営セーフティ共済」に掛け金を納付した約4万人の個人事業主のうち約1600人を調査したところ、906人、金額にして約6億円分に書類の不備、具体的には明細書の添付がなく、そのまま掛け金を必要経費に計上し、優遇を受けていた可能性が高いと言います。
さらに調べていくと、個人事業主が確定申告の際に添付するための明細書の書式を、昭和53年の制度創設以来一度も国税庁が作成していなかったことも判明しました。40年前のことなので事情も分からないということです。国税庁は今年6月にようやく明細書の書式を制作し、確定申告時に添付するように周知する通達をネット上に公開し、一件落着となりました。
国税庁は同共済以外での税の優遇に必要な明細書の書式を作成し、HPで公開してきた。同共済に関しては添付の周知が長年抜け落ちていた形で、担当者も「明細書の書式が作成されていなければ、添付を求めていないと思われても仕方ない部分はある。検査院の指摘を真摯(しんし)に受け止めたい」と話した。
引用:2021年11月7日|産経新聞
制度そのものは問題なし。ではデメリットは?
というわけで、今回は「国税庁のずさんなやりかた」が明るみに出たという事件です。
制度上の問題があったわけではなく、文字通りセーフティネットとして、また節税対策として活用を検討することに問題はありません。
しかし、「経営セーフティ共済」制度にもデメリットがないわけではありません。
①起業1年目の場合使えない。
1年以上事業を行っている中小企業者であるということが加入資格になっています。節税対策としてこの制度を考えた場合には、当然、初年度からそうしたいと考えるのが当然ですが、残念ながら加入は2年目からとなります。
②融資を受けると掛金が減らされる。
融資額の10%が掛金から減らされます。融資可能の最高額である掛金総額の10倍の融資を受けた場合には、掛金がなくなってしまいます。金利負担という点で考えれば、決して安いとは言えません。
③12カ月未満で解約した場合、掛け捨てになる。
12カ月未満での解約の場合には、掛け捨てになってしまいます。掛金を12か月以上納めていれば、自己都合の解約であっても、掛金総額の8割以上が解約手当金として戻ります。40か月以上の場合には、掛金全額が戻ります。ただし、解約時に課税されます。
どんな制度にもデメリットはつきものですが、リスクマネジメントと節税、両面から考えて、この制度の利用について検討してみてください。
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