雇用調整助成金、コロナ禍で財源枯渇か 保険料率見直しの議論開始
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☑ 労働者の雇用を守る「雇用調整助成金」の財源が尽きかけている
☑ コロナ禍での支給急増が要因、支給総額は4兆4000億円超
☑ 厚生労働省の審議会による雇用保険保険料率見直しの議論が始まった
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、雇用を守る対策である雇用調整助成金(以下、雇調金)の財源が底をつきかけています。
厚生労働省の審議会は8日、来年度からの雇用保険料率についての議論を始めました。
コロナ禍対応による支出で財政が厳しくなっていて、保険料率をどれくらい引き上げるかが焦点。労使の委員がそろって引き上げに抵抗し税金をもっと投入するよう求めており、国側との綱引きになりそうだ。
長期化するコロナ禍の影響で雇調金の給付額は急増。
支給総額は4兆4000億円を超え、制度全体の財政を圧迫しています。
保険料率が引き上げられれば2010年度以来となります。
延長が繰り返される雇用調整助成金の “特例措置”
コロナ禍での雇用の維持のため、政府は昨年以降、雇調金の上限額や助成率を引き上げるなどの特例措置を実施しています。
雇調金は、労働者の雇用を守るセーフティーネットとなる雇用保険事業のひとつです。
雇用保険制度には、失業手当などを支給する「失業等給付事業」のほかに、失業の予防や雇用機会の増大などをはかる「雇用保険二事業」があります。
雇用保険二事業には「雇用安定事業」と「能力開発事業」があり、雇調金はこの「雇用安定事業」の一環です。
雇調金は、企業が従業員を解雇せず、休業手当を支払って雇用を維持した場合に支払われます。
政府は当初この特例措置は一時的な対応と想定していましたが、感染拡大が収まらないことから延長を繰り返してきました。
現在すでに11月末までの継続が決まっています。
雇用調整助成金の給付額は膨れ上がる一方
厚生労働省によると、9月10日までの雇調金の支給決定件数は448万5701件。
金額にして4兆4065億円に上っています。
リーマンショックの後(2009年度から2年間)の支給額は合わせておよそ9785億円です。
2年経たないうちに、雇調金の支給額はその約4.5倍となったことになります。
雇調金の主な財源は、「雇用安定事業」のために企業が負担する雇用保険の保険料を積み立てた「雇用安定資金」。
この雇用安定資金の積立金残高は2020年度当初には1兆5000億円ほどあったものの、急激な支給額の増加により、ほぼ底をついてしまいました。
しかしコロナ禍の収束が見込めない状況においては雇調金の制度の縮小ができず、政府は企業と労働者が折半して負担する「失業等給付事業」の積立金からおよそ1兆7000億円の借り入れを実施。
一般会計(税金)からおよそ1兆1000億円を投入して穴埋めしてきました。
今年度1兆2000億円の支給を見込んでいた雇調金は8月27日時点ですでに1兆1000億円を超えました。
1ヵ月あたり2000億円程度の支給が続いており、このままでは財源の枯渇が避けられない状況となっています。
参考
雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)|厚生労働省
コロナ禍で支給急増、雇用保険料引き上げか…秋にも財源枯渇の見込み|読売新聞
保険料率見直しで財源確保の道模索か
雇調金の財源確保が喫緊の課題となる中、厚生労働省の労使の代表などでつくる労働政策審議会は8日から、雇用保険料率の見直しに向けた検討を始めました。
現在の保険料率は、「失業等給付事業」が0.6%、「雇用保険二事業」 は0.3%。
この保険料率を決めた2016年度には比較的財政に余裕があったとして、それぞれ本来の1.2%、0.35%から一時的に引き下げられています。
保険料率を本来の水準に戻すと、月給が30万円の場合、労働者の負担は月900円、企業の負担は月1050円増えることになります。
また、現在の失業給付などの国庫負担率は支給額の2.5%で、これも本来の原則25%から一時的に引き下げられています。
厚生労働省の審議会は、保険料率と同様、国庫負担率についても引き上げに向けた検討を進めるとのことです。
しかしながら、保険料率引き上げなどの負担増に対しては労使ともに強い反発をみせています。
8日の審議会では労働者側からは「国庫負担の割合をあげるべきだ」、企業側からは「保険料率が引き上げにならないよう求めたい」など安易な引き上げに反対する意見が出されました。
上場企業の20%超が雇調金を利用、完全失業率低下の抑止に
コロナ禍の現在、中小企業だけでなく、鉄道・航空などの交通インフラや旅行会社など大手企業も雇調金を利用しています。
東京商工リサーチによると、7月末までに開示された上場企業の決算資料で、雇調金の計上・申請が814社に到達。
これは上場企業(3855社)の21.1%を占めます。
一方、完全失業率はコロナ禍でも3%前後で推移。
リーマンショックの時には完全失業率は5.5%まで上がっており、これと比較すると低い水準でとどめることができています。
先行きが見通せない中、全国的に雇調金は失業を抑える一定の役割を果たしているとみられます。
中長期的な制度の維持のため、一般会計からの繰り入れなども視野に入れた議論が期待されます。
厚生労働省は、年末にかけて行われる審議会での議論をもとに結論を出し、来年の通常国会に雇用保険法改正案を提出する方針です。
参考
上場企業の雇調金 9社が100億円超え 小売は4割超が申請|東京商工リサーチ
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