コロナ禍の企業 資本性劣後ローンで資金調達 国も活用呼び掛け

藤田 勝久
藤田 勝久
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この写真はイメージです。

【この記事の要約】

☑ 資本性劣後ローンの活用により、企業が資金調達する動きが広がる

☑ 資本と見なされるため、自己資本比率が高まり追加融資が受けやすくなる

☑ 経営破綻時の回収が難しく金融機関のリスクが高いことから、金利は高め

☑ 政府系金融機関は限度額10億円のローンを準備。民間金融機関とも連携

 

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、企業が「資本性劣後ローン」を活用して資金調達する動きが広がっています。

資本性劣後ローンは、金融機関の審査上資本とみなされ(資本性)、ほかの一般的な負債より支払順位が劣る(劣後)ローンのことです。

 

地方の中小企業でも、コロナで悪化した資金繰りを改善させようとする動きがみられます。

日本政策金融公庫が新型コロナウイルス対策向けの資本性の劣後ローンを始めてから、7月末までで約1年が経過した。この1年の新潟・長野両県の融資額は184億円。中小の製造業や宿泊業などでの利用が多い。資本にみなされる同ローンを使って業績悪化で傷んだ財務を改善させたり、他の金融機関からの融資につなげたりするケースが目立った。

引用:2021年9月8日|日本経済新聞

 

大企業では、日本航空が業績悪化を受け、日本政策投資銀行など4行から劣後ローンで2000億円程度を借り入れ、社債と合わせて計3000億円の資金調達を行うと発表。

新聞やニュースでも、何かと耳にする機会が増えています。

 

メリット=追加融資が受けやすくなる

資本性劣後ローンのメリットは、資金繰りが良くなる上に、資本とみなされることで追加融資が受けやすくなることです。

 

企業の財務状況は貸借対照表により、借方(左側)に資産(現金や固定資産など)、貸方(右側)に負債(借入金など)と資本(純資産)で表されます。

資産に対する資本の割合を自己資本比率と言い、大きいほど借金に頼らず財務状況が健全と評価されます。

 

通常の借り入れをした場合、当然負債が膨らむので自己資本比率は小さくなり、銀行など民間金融機関からの追加借り入れは難しくなります。

 

しかし資本性ローンで借りた資金は、金融機関の審査上は資本と評価されるので、自己資本比率は向上。財務状況が高評価となり、追加融資が受けやすくなります。

資本性劣後ローンのメリット

また株式会社の場合、株式の新規発行をすることなく資本を増強できるため、株式の希薄化を避けられることができます。

デメリット=金利が高い

デメリットとしては、金利が高いことが挙げられます。

 

劣後ローンは支払順位が劣るため、会社が倒産した際は、税金、従業員の給与、その他金銭債権が支払われた後にようやく弁済されます。

金融機関からすれば、貸し付け先の会社が債務超過で破綻した場合、ほぼ回収できる見込みはありません。

 

このように、通常の融資よりリスクが高いことから、金利は高めに設定されています。

 

ただ、多くの商品は業績により金利が変動。業績が悪いときは金利が下がり、負担は軽減されます。

 

また、資本性劣後ローンは元本一括返還となることが一般的。

そのため、業績が上向いて資金に余裕ができても元本を返せず、高い金利を払い続けることとなります。

逆を言えば、借りている間は金利のみを返せばよく、資金繰りにとってはプラスとなります。

 

政府系金融機関 融資限度10億円

政府系金融機関の日本政策金融公庫(日本公庫)と商工組合中央金庫(商工中金)は、それぞれ新型コロナウイルスの影響による業績悪化に備えた資本性劣後ローンを用意しています。

 

日本公庫は、中小企業向け(融資限度額10億円)と小規模事業者や創業企業向け(同7,200万円)の2種類。

いずれも返済期間は5年1ヵ月、7年、10年、15年、20年の5パターンで、利率は税引き後当期純利益が出れば2.6~2.95%、純損失なら0.5%です。

 

商工中金は、中小企業向けと中堅企業・大企業向けを用意。

中小企業向けは貸付限度額、返済期間、利率とも日本公庫と同じです。

 

日本公庫、商工中金とも無担保、無保証人で融資可能。ただし事業計画の作成、審査が必要で、融資後は毎期の経営状態について報告が求められます。

 

参考:新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)|日本政策金融公庫

参考:資本性劣後ローンのご案内|商工中金

 

民間の金融機関も取り扱い 国も活用呼びかけ

民間の金融機関でも、政府系金融機関と連携して中小企業を支援する動きが盛んです。

 

福島県では、会津信用金庫など8信金が9月15日から、日本公庫の資本性劣後ローンを活用した協調融資商品の取り扱いを始めました。

秋田県信用組合は8月27日、商工中金秋田支店と協調融資などで連携する業務協力契約を結びました。

 

また、北海道の北洋銀行は、日本公庫のローンを活用する傍ら、独自の資本性ローンの提供を始め、貸し倒れリスクの軽減を図っています。

 

経済産業省や金融庁など国の機関も資本性劣後ローンの活用を呼びかけ。

7月には貸付限度額を引き上げ、より手厚い制度としました。

 

コロナが収束する見通しは立たず、中小企業にとってはトンネルの出口が見通せない状況が続いています。

 

金利が高く、元本返済時に急激に資金が悪化する危険性はありますが、生き延びる手段として一考の価値はありそうです。

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