創業から15年、第三者割当増資、売却、MBO、IPOなど様々な資金調達の方法を行ってきた株式会社VOYAGE GROUP/取締役CFO(最高財務責任者)永岡英則氏

資金調達プロ 運営事務局
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まずは永岡さんの自己紹介、生い立ちについてお話いただけますか。

永岡英則氏株式会社VOYAGE GROUP 取締役CFOの永岡英則です。起業にあたってのエピソードなども含めて生い立ちを話すとのことですが、特にないんですよね。中学高校は東京の麻布高校に通っていましたが、遊んでばかりいて、大学生、社会人になってから何をやろうということはあまり考えていませんでした。ただ漠然と企業、経営、市場、戦略、組織といったビジネスのキーワードには心躍る感覚を持っていました。そこで経営学を学べる大学を志望して一橋大学の商学部に入学しました。ゼミは伊藤邦雄ゼミで企業分析を中心に学び、1996年に卒業してコーポレートディレクション(CDI)という戦略系コンサルティング企業に入社しました。実は大学卒業当時はベンチャーキャピタリストになりたいと思っていたのですが、いきなりキャピタリストとして活躍するイメージがわかなかったので、最初はコンサルティング会社で経営を「考える」ことが大事だと判断してCDIへの入社を決めました。

 

コンサルティング会社に入社することで、現社長の宇佐美氏と縁ができたそうですね。

はい。当時のコンサルティング会社は学生の採用数が少なく、採用しても数名という状況でしたので、同期がほとんどいないということも珍しくなかったのです。そこでコンサルティング業界に内定している人とは「同志」として仲良くやっていこうと誰かが声をかけて、いろいろなコンサルティング会社の内定者が集まっていました。そこで当時のトーマツコンサルティングに内定していた宇佐美君と知り合ったのです。その時は特に親しかったわけではなく、知り合いといった程度の仲でした。その後CDIでコンサルタントとして4年ほど働いていたわけですが、99年10月に宇佐美君が友人とVOYAGE GROUP(当時の企業名はアクシブドットコム)を立ち上げました。大学卒業後も宇佐美君とは連絡を取り合っていたので起業後にちょくちょく会社に遊びに行っており、設立半年後にCDIを退職し正式にアクシブにジョインしました。

 

CDIを退職してアクシブにジョインした理由は何だったのでしょうか?

永岡英則氏元々はベンチャーキャピタリストになりたかったので、どこかのタイミングで事業に直接当事者として関わりたいと思っていました。コンサルティングはクライアントに第三者の立場として付加価値を提供するビジネスなので、当事者として事業をすることとは似ているようで全く違うものです。また当時はネットバブルと言われたくらい盛り上がっていて、創業に参画することのハードルが一気に下がっていた時代でした。さらにコンサルタントも4年ほどやってきて、「一人前になった」とは言えないけど、一通りのことはわかってきたという感覚もあり、いろいろなタイミングがうまく重なり合ってここは「チャレンジしない」という選択肢はないなと決意してアクシブで一緒にやろうと思いました。
余談ですが、2000年5月にジョインし2ヶ月後の7月に結婚しているんです。結婚するんだけど転職もしちゃうという、いろいろなことが変化した時期でした(笑)。

 

入社後の仕事は何だったのでしょうか?

基本的には雑用係なわけですが(笑)、会社として大事な課題は、事業計画を作成して資金調達をすることでした。99年の創業時に創業メンバーおよび個人投資家などから創業資金を集めていましたが、2000年に本格的な資金調達を計画し、数多くのベンチャーキャピタルを訪問しました。結果として、8月に5社から計2億円の資金調達を行いました。当時リードインベスターだったインキュベイトキャピタルさん、日興キャピタルさん、富士銀キャピタルさん、安田企業投資さん、オリックスキャピタルさんから出資していただいたのですが、今では企業名が変わっている会社も多く、時代を感じさせますね。あと出資いただいた後に担当のキャピタリストに「アクシブさん、ギリギリ最後でしたね」と言われたのがとても印象に残っています。当時はネットバブル崩壊でソフトバンクや光通信の株がピークの100分の1くらいまで暴落したころで、これ以降、資金調達に苦労したベンチャーが多かったようです。このときに調達できた2億円のおかげで、その後は本当に助かりました。売上もまだ微々たるものでしたし、この2億円がなければ今の姿はなかったかもしれません。

 

最初の大きな資金調達である第三者割当増資を無事成功させたわけですが、1年後の2001年9月にはサイバーエージェントの連結子会社になっていますね。

2001年の夏頃にたまたま複数の企業から買収提案があり、サイバーエージェントはそのうちの1社でした。当時当社はメディア(懸賞サイトMyID、現ECナビ)を運営しており、サイバーエージェントは強力な営業力を持った広告代理店でしたので、ガンガン広告枠を売ってもらおうという意図がありました。お互いの経営陣の関係もよかったこともあり、傘下に入ることにしました。実は裏話がありまして、当社創業直後に経営陣にワラントを発行してあって、これらを行使すればいつでもサイバーエージェントの連結対象から外れることができるという状況でした。ですので、表向きはサイバーエージェントの傘下に入ったように見えましたが、実はサイバーエージェントの営業力を活用する目論見でした。その後いろいろありましたが、結果的には10年以上サイバーエージェントの連結子会社でした。

 

ちなみに2000年に投資したベンチャーキャピタルの各社は、サイバーエージェントの傘下になる際には保有していた株をどうしたのですか?

売却したベンチャーキャピタルが1社だけありました。サイバーエージェントの傘下に入るとはいえ、当時は一時的だと考えていましたし、将来的にはIPO(新規株式公開)も目指していましたから、1社を除いたベンチャーキャピタルさんは継続して保有していました。しかし結果的にはIPOまで株を保有できたのは、ファンドからだけではなく企業本体からのプロパー投資も実行したみずほキャピタル(出資当時は富士銀キャピタル)さんだけでした。みずほキャピタルさん以外のファンドから投資したベンチャーキャピタルが保有する株式は、ファンド期限の償還の関係もあり、当社が買い戻したり、後のMBO(マネジメントバイアウト、経営陣による買収)の際に売却されたりしました。

 

だいぶ時がたち、ほぼ10年後の2012年にMBOを行いましたね。

永岡英則氏その頃までのサイバーエージェントにとっては、利益を出している連結子会社を売りに出す理由はありませんでした。IPOについてはダメとは言わないまでも、当時親子上場は社会的にネガティブに見られていたので、東証に事前審査で話を持っていっても「この株主構成では無理」との反応でした。このような状況が続いていましたが、何がきっかけになったかというと、後に社内で「ハリケーン」と呼ぶ出来事が起こったことでした。
当時の事業の一つに検索シンジケーション事業というものがありました。これは簡単に説明すると、ヤフー社と提携して彼らの検索機能をいろんなメディアに導入してもらい、仲介マージンを当社がいただくというものです。この事業は非常に伸びて大きなビジネスになっていましたが、ヤフー社とGoogle社の提携をきっかけに縮小していくことになります。検索シンジケーション事業が急速に縮小したことを、後に社内で「ハリケーン」と呼ぶようになりました。そして結果として2012年9月期は最終赤字に転落する見通しとなりました。
当時は3月中旬だったのですが、4月末までに売却先が見つかれば売却してもいいというのがサイバーエージェントの判断でした。時間はわずか1ヶ月半しかないのですが、考えてみれば10年来の千載一隅のチャンスだということで、わずかな可能性を求めて動き始めました。その時に唯一可能性があるのは、ポラリスさん(ポラリス・キャピタル・グループ株式会社、プライベートエクイティファンド運営会社)かなと考えました。以前から担当の方とは面識があり、MBOの可能性を一緒に考えたこともありましたから。そしてすぐにポラリスさんに電話して翌日には会って話をしました。サイバーエージェントが当社の株を売ってもいいと言っているので買ってくれませんか、赤字になりますが、と(笑)。

 

その時の売上と利益はいくらくらいでしたか?

この期は結果的に、連結ベースの売上で約80億円、経常利益はほぼとんとんで、当期純利益は1.5億円の赤字でした。このような状況が予測される中で、ポラリスさんが1ヵ月半でデューディリジェンスを実行し、投資を決めてくれたのは奇跡的でした。投資金額としても2桁億円の単位ですし、この短期間でこれだけのリスクを取る意思決定ができる投資家は他にはいなかったと思います。

 

この奇跡的な投資を成功させることができたのは何が要因だと思いますか?

永岡英則氏1つは、ファンドの投資実行期間が残り少なかったことと、残っている資金と当社への投資規模がうまくフィットしていたことです。2つ目は、ポラリスキャピタル、特に担当の方が他のIT企業にも出資しており、IT企業への投資に比較的積極的だったこと。一般的にプライベートエクイティファンドはキャッシュフローの安定している企業への出資が多いので、担当者もIT業界に疎いことが多いのですが、ポラリスさんは違っていました。3つ目は、これが最大の要因かもしれませんが、ポラリスさんのチームと当社の経営陣の波長が合ったことですかね。

 

そして最後の資金調達は、昨年のIPOですね。

MBOから半年間くらいは正直言って苦しい期間が続いたのですが、半年後くらいからアドテクノロジー事業が市場とともに順調に伸びていき、メディア事業も様々なてこ入れが効いてV字回復することができました。当初の計画では1年先だったのですが、アベノミクスの影響もあり株式市場も盛り上がってきているということで、前倒しでIPOすることを決めました。調達金額としては10億円でした。上場したことによりエクイティ(株式発行による資金調達)だけでなくデット(主に金融機関からの借入)による資金調達能力も上がりました。今後はこれをいかにうまく活用していくかが課題ですね。

 

非常に興味深い資金調達のお話をありがとうございました。では次に貴社のサービスの内容や特長、今後の展望などを教えてください。

当社は、メディア事業とアドテクノロジー事業が2大事業領域になっていますが、これらを両方やっていることが強みになっています。アドテクノロジー事業というのは、メディア企業に対していろいろマネタイズの応援をするという立ち位置なのですが、自社のメディアもアドテクノロジーを使って活性化させることができており、シナジーが機能しています。この点は他社にはない珍しい立ち位置にいると思っています。
アドテクノロジー事業は市場も伸びているので、今後さらに成長させるための投資も積極的に行っていきます。メディア事業は、既存の販促メディアだけでは毎年何割も成長していく事業にはならないので、コンテンツメディアの領域に入っていきメディアとしての幅を広げていきたいと考えています。
また当社はどんどん事業開発をしていく企業なので、第3の柱を確立すべく、その他の事業にも積極的にチャレンジしています。今後の当社のさらなる発展にご期待ください。

 

最後になりますが、これから資金調達を行おうとしている経営者や財務担当者にメッセージがあればお願いいたします。

スタートアップのベンチャー企業が出資による資金調達を行う場合は、一般的に言われることですが、資本政策をきちんと考えることが非常に大事です。株主は経営者だけの意向で簡単に変更することができず、後になってからやり直すことも難しいからです。どういう人や企業に株主になってもらうのか、相性をじっくり判断した上で資金調達をすべきです。目先のお金を集める効率だけに固執してしまうと後に禍根を残すことになります。最後はもちろん経営者自身で決断するしかありませんが、一人で悩まずに、いろいろな人に相談すると良いのではないでしょうか。
成長してミドルステージになった企業の場合は、企業としての目指す方向性によって資金の調達方法や調達先が変わってくると思います。ですのでその点を見定めることが重要です。企業として目指す方向はそれぞれ異なるわけで、IPOが全てであるとは全く思わないし、無理に成長を目指さず、好きなことをこつこつ実行していくということもひとつの企業の形だと思います。企業が目指す姿によって資本政策も違ってきますので、物事の優先順位を間違えないということが非常に大事だと思います。
あと一口に株主といってもいろいろいまして、ステージが後になるほど多様性が増してきます。株主がそれぞれどのような世界観や経済性を持っているのかをきちんと理解し、それに合った対応をすることが重要だと最近思うようになりました。具体的には、ファンドなどの純粋な金融資本家はやはり金融的な物の見方をして動くわけですので、それに合った対応、コミュニケーションを取るようにします。これが事業会社になると全く異なりますし、また金融資本家といってもベンチャーキャピタルになると事業的な見方が増してきて、純粋な金融資本家とはやはり異なります。個人投資家となるとなおさらいろいろな人がいるわけです。それぞれに合った適切なコミュニケーションをとることが必要だなと感じます。
資金調達には正解はないし、もちろん正解を求める方程式といったものもありません。いろいろな人に相談して最終的には自分で決断するしかありません。お互い頑張りましょう。

永岡英則氏

 

永岡さん、お忙しい中、本日はどうもありがとうございました。

株式会社VOYAGE GROUP | 人を軸にした事業開発会社
http://voyagegroup.com/

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